本研究の目標は、バイオメカニクス研究の一環として筋収縮運動系を取り上げ、その構造と機能を、力学特性の面から明らかにすることにある。我々は特に、横紋筋線維(骨格筋と心筋)の収縮要素系(この主要な構成要素は、アクチン、ミオシンフィラメント)と弾性要素系(コネクチン、ネブリンなど)を取り上げる。さらに本年度は、レーザー光ピンセット法を用いて筋収縮系を構成する単一分子エンジン(アクチン、ミオシン複合体)の力学特性を検討した。得られた結果を列挙すると、(1)単一筋原線維を用いた弾性要素系の研究において、細い(アクチン)フィラメントに側面会合したネブリンの弾性率を測定した。昨年度までの研究に加えて、今年度は論文発表のために一層の定量化を計る一方、得られた弾性率が確かにネブリン由来のものであることを示す決定的なコントロール実験を行った。(2)筋(原)線維内での細いフィラメントの構造的・機能的再構築の研究においては、ウシ心臓より調製した心筋線維束を用いて、ゲルゾリン処理によりほとんど全ての細いフィラメントを除去することによって一旦収縮能を失った線維束に、精製アクチンを加えることによって収縮能を回復させることに成功した。張力の回復は骨格筋においては高々30%であった(Funatsu等、論文印刷中)が、驚いたことに心筋の場合は最高200%に達した。アクチンフィラメントが筋線維束中で再構成されていることは、走査型共焦点レーザー蛍光顕微鏡観察により確認された。今後は一層の定量化を量り、得られた結果の生理的意味などを検討したい。(3)in vitro滑り運動系において、硬直条件(ATP非存在)下でHMM(ミオシン分子の酵素断片)一分子とアクチンフィラメントの間の結合力(実際に破断力)を光ピンセット法によって計測し、10pNという値を得た。今後は定量化の精度を上げ、HMM一分子の弾性率を見積る予定である。
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