本年度はラット心室から酵素により分離した単一心筋細胞を用いて以下の研究結果を得た。 1.心室の異なる3つの部位(右心室、左心室内膜及び外膜側)から別々に単一心筋細胞を分離し、その細胞の大きさや無負荷の状態での収縮特性を調べた結果、それらの性質に部位差のないことが判明した。 2.生理的収縮と自発性の異常収縮時の筋節の収縮動態について比較検討した結果、筋小胞体からのカルシウムイオンの放出及び取り込みの過程がそれらの収縮の間で異なることが示唆された。 3.微小張力測定装置とアクチュエーターを細胞の両端に固定した状態で細胞の長さ変化を測定する方法を確立した。そして、心筋細胞の弛緩時の力学的性質と細胞内構造の関連について検討し、以下の結果を得た。 (1).細胞膜及びその裏打ち構造である微小管をBrij58などで破壊すると静止張力及び細胞のstiffnessは20‐30%程減少した。 (2).イオン強度の上昇によりミオシン線維やアクチン線維、及びそれに付随するコネクチン線維を完全に除去すると、細胞のstiffnessは著しく減少し、細胞は容易に生体での長さの3倍位まで伸展されるようになった。 (3)これらの線維を部分的に除去することによって、コネクチン線維のミオシン線維やアクチン線維への結合状態を推定することが可能なので、アクチン線維を選択的に溶解除去するゲルゾリンを用いて、アクチン線維を除去した時のstiffnessの変化について現在検討中である。またミオシン線維の部分的な溶解も試みている。これらの線維の除去の程度は標本を微分干渉顕微鏡や蛍光顕微鏡で観察することにより推定することができる。
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