高強度・延性を発現しながら高い環境脆化感受性を示す金属間化合物の水素環境脆化機構と水素吸蔵過程を明らかにすることを目的として、Ll_2型Co_3Ti化合物の水素および水蒸気による環境脆化現象を、高真空小型パンチ(SP)試験機に、本研究費による残留ガス質量分析計を取り付けて、SP破壊エネルギーおよび電気化学的水素表面特性を評価して研究を行った。 1.化学量論組成からのずれ、Fe、Alの第三元素添加、試験温度依存性、変形速度依存性、水蒸気・水素の分圧依存性を広範囲、かつ系統的に調べて、『水蒸気・水素-変形速度・温度-破壊エネルギー線図』にまとめて、明瞭な脆化の臨界水素分圧および臨界水蒸気分圧の存在を初めて見出した。 2.金属間化合物の室温、大気中の著しい延性低下は、環境中の水蒸気および水素に誘起される水素環境脆化という外的な(extrinsic)な要因によるものであり、CO_3Ti系の本来の(intrinsicな)強靭性は10^<-5>Pa以上の高真空領域に存在することを明らかにした。 3.カソード分極曲線、インピーダンス特性、トリチウム電顕オートラジオグラフィ法による水素トラップサイトの観察から、Co-21at%Ti-3at%Feの優れた耐水素脆化割れ性は、大気環境からの水の解離反応に伴う固体内部への原子状水素の侵入を抑制する表面性状に起因することがわかった。 4.今後は、環境水蒸気の影響を極限まで除いた破壊靭性エネルギー、水素トラップ組織と水素拡散・水素転位輸送挙動、水素表面反応の知見を得て、金属間化合物の水素吸蔵過程と水素脆化機構についてまとめたい。
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