研究概要 |
層状銅酸化物にかわる新しい高温超伝導へのルート開拓を目指して、Ni化合物について超伝導物質探索を行った。具体的には、Niホウ化物系および、銅酸化物超伝導体と同様の量子スピン状態を示す一次元Ni酸化物へのキャリアドーピングの試みを二本の柱として研究を進めた。 その成果として、一連の新しい超伝導体Y-Pd-B-C(Tc=23K),LnNi_2B_2C(TcはLn=Luで最高で16.6K),LnPt_2B_2C(TcはLn=Yで最高でTc=12K)を発見した。特にY-Pd-B-Cの転移温度Tcは金属間化合物としてはこれまでの最高記録であり、遷移金属ホウ化物炭化物の高温超伝導体としてのポテンシャルを示すことができた。LnNi_2B_2CおよびLnPt_2B_2Cについては、組成、結晶構造ともに同定し、単結晶を用いた物性測定のレベルにまで研究を進めた。その主な結果として、結晶構造が銅酸化物と同様層状構造であること、伝道電子は主としてNi3dの性格を有すること、これに伴って比較的フェルミ面での電子の状態密度が高く、強い電子相関に伴うスピン揺らぎの効果が期待されることなどが明らかにされた。また、磁性希土類元素を含む超伝導体では、希土類スピンの磁気秩序に伴うリエントラント超伝導現象を観測した。これらの新しい超伝導体で、何らかのエキゾチックな超伝導機構が働いているか否かを検証するために、国内外の他の研究グループと協力体制を組んで精力的な物性実験が現在進行中であり、これら一連の超伝導体が研究テーマとしてさらに大きく広がることは確実である。 量子スピン系に対するキャリアドーピングの試みでは超伝導こそ得られなかったものの、ハルデンギャップを有する新しい量子スピン系Y_2BaNiO_5にキャリアを導入することに初めて成功し、量子スピン状態と電荷の相互作用という新しい物理の舞台設定を実現することができた。磁性、電子輸送現象、光応答など幅広い角度から導入されたキャリアの状態を検討し、その性格を明らかにした。
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