研究概要 |
酸化物高温超伝導体の物性を理論的に理解し超伝導のメカニズムを解明するため,前年はCuO_2面を記述するd-pモデルでの電子対の形成について考察したが,本年は,2次元t-t'-Jモデルの数値的対角化を行った.半導体エネルギー研究所の宮永昭治博士と東京大学理学部福山秀敏教授との共同研究である.2次元t-Jモデルは,低次元性と強い電子相関という酸化物高温超伝導体の特徴をよく記述するモデルである.最近,福山たちによって,t-Jモデルを次近接及び第三近接間のホッピングを含むように拡張されたモデル(t-t′-t″-Jモデル)の平均場理論で高温超伝導体の核磁気緩和や中性子散乱の実験がよく説明されることが示された.彼らによると,ランタン系(LSCO)とイットリウム系(YBCO)のフェルミ面の形状を表すように次近接及び第三近接間のホッピングを選ぶと,LSCOとYBCOの実験事実の違いがよく説明できる.しかし,強相関電子系のフェルミ面が平均場近似で正しく記述されているかどうかは自明ではない.実際,t-Jモデルでホールが1つだけ存在する場合には.長岡強磁性の状態になり平均場近似とは大きく異なる.そのため,数値的厳密対角化による計算を行い平均場近似と比較することが重要になる.以前にt-Jモデルの基底状態を調べるために開発したプログラムを運動量分布等を求めるようにし,また,ワークステーションで計算できるように改良した.結果は,強相関にも関わらず平均場近似が比較的よい近似とみなせることが示された.また,パラメータの値によっては,平均場近似があまり正しくない場合もあり,適用限界があることも明らかになった.結果は,J.Phys.Soc.Jpn.に掲載が決まっている. また,超伝導体の細線でできた3次元ネットワークの転移温度の,磁場の大きさと方向による依存性を計算した.
|