研究概要 |
[Mo_7O_<24>]^<6->及び[W_<10>O_<32>]^<4->は水溶液中においてアセチレンの水和反応の光触媒として働くことを見い出してきた。この特異な光反応における[W_<10>O_<32>]^<4->の光触媒活性に注目して,[W_<10>O_<32>]^<4->に3価の希土類原子を取り込ませたポリタングステン酸[LnW_<10>O_<36>]^<9->を合成し,Ln^<3+>のイオン半径などの相異による[LnW_<10>O_<36>]^<9->の配位子場の構造変化を求めた。次いでこれを光触媒とする小分子の活性化(二酸化炭素の還元,アセチレンの水和)を試みた。触媒に用いるポリ酸の構造を決定するため,6種類の希土類金属Pr,Nd,Sm,Gd,Tb,Dy(原子番号がそれぞれ59,60,62,64,65,66)を取り込ませた[LnW_<10>O_<36>]^<9->のカリウムナトリウム塩を合成し結晶構造解析を行った。6つの化合物は空間群がP2_1/nで単位胞の体積が5458〜5497立方Aの同型の単位格子を形成する。また,結晶軸aの長さが中心の希土類元素の原子番号の増加と共に小さくなる傾向が認められた。アニオンは理想的にはD_<4d>の対称性を持つが2つのK^+がアニオンの両側に配位しており,そのため対称性はC_<4v>に低下している。その結果[LnW_<10>O_<36>]^<9->の2つの[W_5O_<18>]^<6->グループは非等価となりそれぞれの中でのW…W,Ln…W距離に違いが現れることが判明した。さらにLn…O,Ln…W距離は中心のLnの原子番号の増加に伴い短くなる傾向を示すランタニド収縮を示した。これは、結晶軸aの変化がポリ酸の長軸方向のサイズ変化と平行にあるa軸の長さに反映されたものとして理解できた。 合成したポリ酸を用いてアセチレンの水和,二酸化炭素の還元反応を試みたがいづれのポリ酸も光反応は進行しなかった。これは[EuW_<10>O_<36>]^<9->の場合と同様,O→W LMCT帯光励起によってポリ酸格子に注入された励起エネルギーの大部分が中心のLn^<5+>へ分子内エネルギー移動することによるものと推定された。
|