研究概要 |
本研究では以下のような研究成果が得られた。 1.装置:自作のフーリエ変換ESR(FT-ESR)およびスピンエコー(FT-ESE)装置を完成させた。cw時間分解ESRの結果と比較すると1)スペクトル感度、2)時間分解能、3)スペクトル分解能の点で1桁ほどFT-ESRの方が優れていることがわかった。共振器は、従来の空洞共振器と自作のループギャップ共振器の両方を試したが、ギャップの大きさを工夫すれば後者の方が感度・時間分解能の点で勝っていた。 2.光誘起電子移動反応:ポルフィリン(ZnTPP)-キノン(BQ,DQ)系 (1)FT-ESR信号の時間変化を用いて、cw時間分解ESRでは観測できなかったレーザー照射後200ns以下の反応初期過程と10μs以後のラジカルの二次反応(逆電子移動反応)過程を追跡することができた。3つの指数関数によるシミュレーションからスピンおよび反応ダイナミクスの時定数が求められた。 (2)通常のFT-ESRではdead time(150ns程度)のため観測できなかった、スペクトルのブロードなポルフィリンカチオンのスペクトルを電子スピンエコー(ESE)法とサンプルの重水素化法の2つの方法で初めて観測することに成功した。これによって反応に関与する3つの中間体、アニオン、カチオン、イオン対のすべてがESRで観測された。 (3)イオン対信号は、FT-ESR法ではラジカルのスペクトルの上に分散成分として観測されるが、本研究で信号の吸収成分と分散成分を正確に分離する方法を確立した。これによってイオン対の動的挙動をイオンと分散して観測することができ、その生成・消滅の速度定数が得られた。
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