電子交換相互作用を介して物理・化学的変換(電子移動、励起エネルギー移動など)が起こるとき原系の電子スピン情報が生成系に反映して現れる。本研究は、有限磁場下での電子スピン情報の転写のメカニズムについて、詳細に解明することを目的として行われた。主として、励起エネルギー移動、分子内電子移動系について取り上げ、空間的に分子配向・分子間距離の異なったモデル化合物について電子スピン分極の挙動を解明した。励起エネルギー移動系での研究を基にして、エネルギー受容体の電子スピン分極は 1;励起エネルギー供与体・受容体の相対的配向 2;励起エネルギー供与体の電子スピン分極 3;励起エネルギー移動速度と電子スピン緩和時間 に依存して変化することが定性的に明らかにされた。また、時間分解EPR法およびパルスEPR法により種々の常磁性体の電子スピン緩和時間を評価し、分子内励起エネルギー移動過程での電子スピン分極移動について定量的に解析するための基礎的な知見を得た。さらに、新たに分子内電子移動系についてモデル化合物を合成し、電子移動過程での電子スピン分極の保存について検討を進めた。この結果、電子移動にともない生成するラジカルイオン対の電子スピン分極は、電子供与体の電子スピン分極を反映して現れることが明らかにされた。
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