包接体結晶の新しいホスト化合物としてチエノチオフェン環を剛直部分構造とする化合物を設計・合成し、それらの磁気的性質をESR、SQUIDなどで調べるとともに、X線結晶解析を行い結晶構造からスピン相互作用について検討した。具体的には、チエノ[3、2-b]チオフェン(1)およびチエノ[2、3-b]チオフォン(2)にニトロニルニトロキシドあるいはイミノニトロキシドをスピン源として一置換させたモノラジカルあるいは二置換させたジラジカルを対象とした。これらの中、ニトロニルニトロキシド一置換体の(1)の結晶において弱い分子間強磁性相互作用があることが見いだされた。しかし、さらに低温では反強磁性相互作用が発現した。結晶構造解析の結果、硫黄原子と窒素原子の間に強いコンタクトがあり、一次元の分子鎖を形成していることが明らかになった。極低温では分子鎖間の反強磁性相互作用が勝ってくるものと推定される。ジラジカルでは、低温グラス中のESRのシグナル強度変化から、分子内スピン相互作用を検討した。その結果、パイ共役のトポロジーからの予測とは異なり、(2)のモノニトロニルニトロキシド体およびモノイミノニトロキシド体の双方で、分子内反強磁性相互作用があることが見いだされ、交互炭化水素系のスピン分極の規則は、ヘテロ環化合物には単純に当てはまらないことが分かった。
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