研究概要 |
本研究は、特異な磁性相関を示す有機磁性材料の電子状態の解明を目的として実施したもので、その研究実績の概要は以下のようである。 1.C・-H、N・、N・^+-H、N-O・等の安定ラジカルについて、m-フェニレン骨格を介したスピン間相互作用を分子軌道法および1次元結晶軌道法を用いて解析した。PM3-UHFおよびPM3-CI法による交換積分はともに正であり、これらのラジカルが全てm-フェニレン骨格を介して強磁性的にカップルすることが示された。これらの値は何れもポリアセチレン鎖を介したフェノキシラジカル間の値より大きく、m-フェニレン骨格があらゆる有機ラジカルの強磁性的カップリングに有効であることを示唆している。但し、これらのカップリング定数(交換積分)の大きさは、必ずしも一定ではないことが分かった。 2.1,3,5-トリメチレンベンゼン(TMB)と1,3,5-トリアミノベンゼン(TAB)トリカチオンの4重項状態および競合する2重項状態について、ヤーン-テラー効果を考慮しつつ非経験的分子軌道法を用いて詳細に解析した。エネルギーは6-31G^*基底関数を用いて2次のMoller-Plesset摂動(MP2)レベルで算出した。何れの場合も、D_<3h>構造を有する4重項状態はC_<2v>構造を有する3種類の2重項状態よりも10kcal/mol以上安定であった。従って、ベンゼン環の1,3,5-位に結合したトリラジカルは基底4重項であり、これらのトリラジカルの4重項ESRスペクトルの結果とよく一致する。 3.高分子強磁性体モデルとして、ポリアセチレン鎖を介したフェノキシラジカル間の磁気的相互作用を分子軌道法および1次元結晶軌道法を用いて解析した結果、これらのラジカルは直接相互作用に基づく反強磁性配列を示す傾向があることが分かった。オブチニコフの予測に反して、ポリアセチレン鎖は有機ラジカルの強磁性的カップリングには適当ではないことが分かった。
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