研究概要 |
有機化学的にRNAを合成しようとする場合には、エステル交換反応による異性化を制御するために、ヌクレオチドモノマーのリン酸部分に様々のエステル性置換基を導入する手法がとられている。本研究はエステル交換反応の反応性を決定する要因を明らかにしてより効率的な異性化反応制御法を開発するための指針を得ることを目的とした。 研究にあたっては問題を次の二点に分類して考えた。(1)リン酸エステル交換反応の五配位中間体での異性化を決定する反応の進行の可否。(2)五配位中間体生成の可能性に対する置換基の影響。(1)の観点では擬回転反応に対する置換基効果、secondary ringの効果を調べることになる。(2)では五配位体の安定性に対する置換基効果を明らかにすることになる。(1)については五配位中間体ではt-ブチルエステル置換基を持つ場合でもメチルエステル置換基を持つ場合でも異性化反応の反応性にほとんど変化が見られないという結果が得られた。(2)については、メチル、エチル及びi-プロピルエステルを持つモデルの反応においては、五配位体形成による安定化は同じ程度である。これに対して、t-ブチルエステルモデルときは五配位体の相対的安定性が他の場合と比較して低いことが明らかになった。これは、t-ブチルエステル置換基を導入した場合には異性化を抑制できるという実験結果と一致している。〈R-O-PはR=Me,Et,i-Prの場合にくらべ、R=t-Buの場合は5°程度広がっている。結合角のひずみのために五配位体形成時の安定化がかなり打ち消されるものと考えられる。t-ブチルエステル基をもつ化合物でエステル交換反応が起こらないのは、五配位中間体が不安定なため、擬回転反応による異性化が進行するための出発点にすら到達できないためといえる。以上の結果より、五配位中間体の安定性そのものを変化させ、(2)の反応過程を制御して異性化反応の反応性を操作可能にできると考えられる。 上記以外に、第一遷移系列六配位型二価イオンの水交換反応についての理論的研究も行ったが紙面の都合上省略する。
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