研究概要 |
高励起状態、特に、イオン化ポテンシャルより高い超励起状態の理論的研究は、レーザーの発展などに伴い、興味のもたれる分野である。今年度は、 H_2O-He^*(2^3S)→H_2O^+(^2B_1,^2A_1,^2B_2)+He+e^- のペニングイオン化の系について、昨年度の共鳴状態ポテンシャルV^*,幅Г_iの計算結果に基づき、古典トラジェクトリ計算を行い、断面積の衝突エネルギー依存性、および、標的H_2O分子の回転温度T_<rot>依存性を調べ、回転温度の低下による断面積の衝突エネルギー(E)依存性の変化を予測した。 衝突エネルギー依存性をT_<rot>=300Kで調べると、E=0.3〜1.0eVに全断面積・部分断面積がいずれもほぼ一定か、わずかに減少している領域が現れた。これは、0.05〜0.3eVで実測されている部分断面積がほぼ一定であることと定性的に一致している。また、A_1状態へのイオン化断面積が相対的に大きいことも実測と一致している。オパシティ関数から、衝突エネルギーが小さいときには、ポテンシャルの引力部に引き込まれたトラジェクトリは、ほぼ完全にイオン化するが、衝突エネルギーが増加すると、ポテンシャルの引力部に引き込まれても完全には、イオン化しなくなることが明らかになった。これは、標的が原子の場合の描像と一致している。回転温度を下げると、全断面積は全エネルギー領域で増加するが、特に、衝突エネルギーの小さい領域で著しく、その結果、負のエネルギー依存性を示す領域が広がることがわかった。また、T_<rot>=300Kでも主要なイオン化状態であったA_1状態へのイオン化がさらに促進された。オパシティ関数の結果からも、回転速度の低下によってトラジェクトリが引力部に捕捉されることが裏付けられる。計算の結果から、超音速自由噴流などにより回転温度を下げた場合の断面積の変化を予測した。
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