研究概要 |
断熱近似により生じる幾何学的位相を2つの電子状態モデルで考察し幾何学的位相のもとになうゲージポテンシャルの一般式を得た.このゲージポテンシャルはトポロジカルな部分と磁気的な部分に分けられる.ゲージポテンシャルの系に対する効果としていままでにわかったことは以下のことである: 系が時間反転対称性をもつ場合,幾何学的位相を生じるには2つのポテンシャル曲面が交差することが必要である.この場合ゲージポテンシャルの磁気的な部分は0になり,幾何学的位相は+1または-1に限る.幾何学的位相が-1の場合,ポテンシャル曲面が交差点をまわる角度の変換に対して V(〓+2pi/n)=V(〓),n〓2,n:integer の対称性を持つとき,バイブロニックな基底状態は少なくとも2重に縮退している.幾何学的位相が+1の場合にはこのような基底状態の縮退はない.n=2,3の場合,この縮退した基底状態は等価なポテンシャル曲面の極小点の1つに局在したバイブロニックな定在波をもつ,この定在波は他の極小点へのトンネル効果による移行に対して安定である. 系が時間反転対称性をもたない場合,幾何学的位相は2つのポテンシャル曲面が交差しなくても生じる.この場合系が時間反転対称性をもつ場合にみられた縮退は存在しない. 幾何学的位相は系の時間反転対称性と深くかかわっている.時間反転対称性をもつ系に対して磁場をかけることによって,時間反転対称性をもたない系に変換できる.するとゲージポテンシャルの磁気的な部分があらわれる.磁場をかけることによって時間反転対称性をもつ系で見られたポテンシャル曲面の極小点の1つに局在したバイブロニックな定在波を不安定化させ,他の極小点へトンネル移行させることができる.これは外部磁場により,トンネル効果による化学反応を促進させることができるということを示唆している.
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