平成5年度の研究活動は、凝縮系の化学反応における溶媒効果を概念的に(i)平衡溶媒効果と(ii)非平衡溶媒効果(摩擦効果など)に分け、微視的見地から遷移状態理論の予測する反応速度定数に対する補正因子を導出すると共に、化学反応分子動力学法に基づくシミュレーション的研究を行い、溶液内化学反応における反応エネルギーの起源とその移動機構を原子・分子レベルで解析した。具体的には次のような詳目内容に分けられる。 (1)溶液反応系の微視的ハミルトニアンに基礎を置いて、反応系と媒質系の構造を考慮した微視的化学反応理論を展開した。そうして得られる一般化ランジュバン方程式により、反応系の動的溶媒効果や非平衡性を第一原理から取り入れる事ができる。本年度は自由エネルギー曲面と平均的ポテンシャルとの関係式が得られた他、分子論に基づいた分子摩擦の概念化に到達できた。 (2)溶液系の熱的化学反応における反応エネルギー流れの集中と散逸の詳細な機構を明らかにするために、水溶液中のフォルムアミジンの異性化反応をモデル反応として、化学反応分子動力学シミュレーションを実行した。その結果、反応エネルギーの緩和(あるいは集中)は分子固定座標系において、x、y、それにz軸方向のエネルギー流れの正負のバランスの結果として生じることを初めて明らかにした。 溶液化学反応における反応エネルギーが溶媒分子群の運動エネルギーからまかなわれるのか、それともポテンシャルエネルギーからまかなわれるのかを知るために、平衡統計力学のNEVアンサンブルについて知られているLebowitz‐Percus‐Verlet(LPV)関係式を用いて先のシミュレーション結果を統計処理した後解析した。
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