Calabi-Yau多様体の2次元の対応物はK3曲面であるので、K3曲面にたいするミラーシンメトリーをまず調べることにする。さて、2次元正規特異点のうち、変形の実質的次元(modality)が小さいものはArnol'dによって分類されている。その中で、modalityが1であるものは3種の類に区分されるが、その一つが例外型特異点と呼ばれる14個の特異点である。Arnol'dはこれらに「奇妙な双対性(strange duality)」が成立していることを観察した。すなわち、14個の特異点の様々な不変量を並べると、それぞれの特異点に対し、不変量が入れ代わる特定の相手(自己双対を含む)がある。その根拠を問うたのだが、Pinkhamによれば、これらの特異点を変形してあるスムージングをとると、K3曲面で、重み付き射影空間の重み付き超曲面として実現されるものにコンパクト化でき、その実2次元ホモロジーラティスにペアをなす特異点のミルナーファイバーが埋め込まれている。これは新たな観察ではあるが、奇妙な双対性の理由を解明したことにはなっていないことに注意する。さて、特異点のヤコビ環の構造から、このK3曲面に対するミラーシンメトリーが奇妙な双対性に対応すると思われるふしがある。一方、ミラーシンメトリーの一つの現象としてRoan-Batyrevによるトーリック幾何学における双対とみなせると予測されているものがある。この2つを組み合わせて、双対錐を用いて計算をした結果、幾つかについて奇妙な双対性を確認した。
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