弦理論の性質を理解するための解ける模型として、非臨界次元の弦理論が研究されてきた。特に、c=1模型は二次元時空中を運動する弦理論であるとみなす事ができること、理論が大きな対称性をもつこと(数学的に豊かな構造が見えること)などから精力的に研究されてきた。臨界次元の弦理論と同様に、このc=1模型も様々な時空構造を記述すると思われている(古典的に許される真空がたくさんある)。その中には二次元のブラック・ホールとみなされる時空構造も含まれている。この様な時空を背景場としても理論は可解であると思われているが、行列模型における様な離散的な方法・構成論的での定式化は十分に理解されてはいない。連続理論の立場でも、物理的自由度、コンパクトでないカレント代数の構造などの理解が不足している。伊藤等の論文では、連続理論の立場から、実現し得る物理的状態を求めた。これらの状態は理論の持つ代数的構造と深く関連しているはずである。 研究分担者・五十嵐は、非臨界次元の弦理論を一般化正準形式を用いた重力の量子化の問題としてとらえ、この立場から研究を進めてきた。現在の素粒子論の理論的基礎を与えるゲージ対称性を持つ理論(非可換ゲージ理論、弦理論、重力理論等)はすべて拘束系として記述される。五十嵐は共同研究者とともに、あらゆるゲージ理論の基本的対称性であるBRST対称性に立脚した拘束系に対する一般論である一般化正準形式を整備し、様々な理論に応用してきた。その結果、特にゲージ・アノマリーの一般的な解析や異常ゲージ理論の系統的量子化法の確立等の成果を上げてきた。非臨界次元の弦理論はまさに異常ゲージ理論の例になっており、上記の立場からの分析が可能であり、また、有効であると思われる。発表した研究成果には、非臨界次元の弦理論の研究で基本的なDDK作用の導出、二次元のブラック・ホールの物理を考えるために基本的なアノマリーについての非常に示唆的な結果等が含まれている。
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