研究概要 |
フラーレンはアルカリ金属のドープにより半導体から金属状態に転移することが知られ、その電子状態の変化について様々な観点から研究されているが、詳細な機構は不明な点が多い。本研究では、フラーレンのアルカリ金属の電気化学的ドーピングと溶液からのイオン性結晶を用い、光学吸収、ESR、伝導度の測定から電子状態の変化を詳細に調べた。 電気化学的還元ではC60(純度99.9%)粉末を真空蒸着により薄膜とし、LiCIO_4/プロピレンカーボネイト溶液中でLiのドーピングを行ない、ドープ過程での吸収と伝導度の変化を測定した。中性C60から電子一個の還元過程まで測定することができ、1-1.2eV近傍に3本の微細な吸収ピークが現れ、2.8eV、3.6eVの吸収は減少する結果が得られた。これは還元により、t_<1u>のLUMO準位に電子が付与され、その結果t_<1u>→t_<1g>の光学遷移が1-1.2eVに現れ、また、吸収の減少はHOMO準位のhgからt_<1u>などへの遷移の減少によるものと解明できた。伝導度の測定から、Li金属の一価ドーピングによっても伝導度は増加することが分かった。 イオン性結晶ではNa_XC60,K_XC60,Rb_XC60について微粉末の形状で得られ、これらのESRの温度依存性の測定から、微結晶は金属相を成していることが分かった。またそのTHF溶液の吸収スペクトルは中性C60溶液とは大きく異なり、t_<1u>準位が半分満たされたx=3と推定した。 また導電性高分子にC60を微量添加した複合膜の光励起発光、誘起吸収の測定を行なった。導電性高分子特有の発光が減少し光誘起吸収が顕著に現れる結果より、C60の微量添加によりフォトクロム現象の増感作用を見いだした。これは光照射によって導電性高分子に光励起された電子がC60に電荷移動する光励起イオン化現象によるものであると推定した。
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