本研究では、(1)炭素クラスターにアルカリ金属原子またはシリコン原子を混ぜその生成機構を調べる、(2)C_<60>クラスターの負イオンビームを高温パルスノズルを用いて生成させる、の2点に重点をおいた。 炭素クラスターの生成にはレーザー蒸発法を用い、このパルスレーザーの部品を本研究費で購入した。シリコン原子を含む炭素クラスターは炭化シリコン試料棒のレーザー蒸発によって生成させ、また、新たに開発した高温パルスノズルを用いて、C_<60>を気化させてビームとした。その結果、炭素とシリコンとの類似性が反応性や光電子スペクトルの測定から明らかにでき、また、摂氏530度以上の加熱によってC_<60>負イオンビームが生成できることがわかった。以下に、炭素-シリコンクラスターの結果について述べる。 まず、Si_nC_mクラスター(n=0-2)とアセチレン気体(C_2H_2)との反応ではC_2Hの付加が主に起こり、反応性の大きさはSi原子が混ざることで減少した。また、C原子のみのクラスターでは奇数個のクラスターの反応性が高いのに対して、Si原子が1個混ざるとC原子が偶数個の方が反応性が高くなり、偶奇が逆転した。そして、シリコン原子が2個混ざるともはや反応性のサイズ変化は大きく変化して炭素のみのクラスターの反応性とは異なってしまうことがわかった。反応性の高低の偶奇が逆転するのは、そのSi原子がC原子と同じように振舞うためであると考えられる。同様のことがSi原子を主としたSi_nC_mクラスター負イオンの光電子スペクトルからも明らかになった。Si原子だけのクラスターの光電子スペクトルとC原子が1個混ざったクラスターの光電子スペクトルを比較すると、総原子数を同じにして見るとスペクトルの特徴(ピークの形状や本数など)がよく似ていた。また、光電子スペクトルの最も低いエネルギーに位置するピークの立上りから電子親和力を求めると、偶奇性が逆転していることわかった。つまり、C_nクラスターにSi原子を混ぜたのと同様に、Si_nクラスターにC原子を混ぜるとその1個目のC原子はSi原子のように振舞うことがわかった。以上のように、Si_nC_mクラスターではSi原子とC原子との1個の置換はクラスター中に多く存在する原子のクラスターそれぞれの幾何構造を保持していると考えられ、同族元素としてある程度の類似性をもち得ることがわかった。
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