本年度は、もっとも一般的ななフラーレンであるC_<60>の大型単結晶を用いてそのガラス転移を詳細に調べた。C_<60>は、面心立方格子(FCC)から単純立方格子(SC)へTc=260Kで1次相転移を起こすが、これに関しては大型の単結晶ができる以前から知られている。しかし、さらに低温において物性の異常が観測されており、別の相転移の存在する可能性が示唆されてきた。それに対して構造的なアプローチという意味では、例えばこれらの温度付近での回折強度の大きな変化は報告されていなかった。このような回折強度の大きな変化や、位置の変化などが見いだされなければ、相転移の構造的な面からの詳細な議論は難しい。 今年度の研究において、我々は約160K付近で強度の消失する反射を見いだした。この反射は約90Kで突起状の異常を示すことがわかったが、これは熱容量等の測定よりガラス転移と対応している可能性が高い。ガラス転移であれば、試料の熱履歴、例えば冷却速度の依存する振舞等が観測されるはずであり、実際に緩和現象を観測することができた。これはC_<60>のガラス転移の回折手法からの直接的検証を行なったことになる。 本年度の研究成果は、一部について第3回IUMRS先進材料国際会議で発表された。また、英文雑誌であるJ.Phys.Soc.JpnやPhys.Revに掲載し、またさらに進んだ結果についても既に同雑誌に投稿している。
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