研究概要 |
触媒的な不斉合成では触媒量の不斉源から無限個の光学活性化合物が合成できるので,高い立体選択性が達成できれば,実際的な価値もきわめて大きい.中でも遷移金属錯体触媒反応では炭素-炭素結合生成反応などに代表される多様な反応が可能であり,また触媒効率の点などからも遷移金属系触媒反応は触媒的な不斉合成に最も適したシステムである.これまでにこのような遷移金属錯体触媒を用いる高選択的不斉合成を目指して,新しい触媒反応の開発と不斉触媒の設計・合成を行い,いくつかの良好な成果を得てきた.たとえば林(北海道大学)の光学活性単座ホスフィン配位子MOPは,パラジウム触媒によるオレフィンの不斉ヒドロシリル化やアリルエステル類の不斉ギ酸還元など種々のタイプの不斉反応で従来の不斉配位子よりはるかに優れた高い触媒活性と立体選択性を示した.香月(九州大学)は光学活性なサレン配位子を合成し,これを用いたマンガン触媒不斉酸化により官能基をもたないオレフィンの高エナンチオ選択的エポキシ化反応を実現した.北村(名古屋大学)は軸不斉ホスフィン配位子BINAPを駆使してルテニウム触媒による種々のオレフィンおよびケトンの不斉水素化で極めて高い立体選択性を得た.柴崎(東京大学)は希土類アルコキシドを不斉触媒とする新しいニトロアルドール反応や不斉マイケル反応を見いだし,これを高血圧治療薬などの不斉合成に応用している.桧山(東京工業大学)はスチレンや共役ジエンの不斉ヒドロシリル化など有機ケイ素化合物を触媒的不斉合成に用いて良い成果を得ている.
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