アクリルアミド誘導体とビニルフェロセンを共重合したポリマー(PAF)は、20℃付近を境として低温側では水に可溶だが、高温側では不溶である。このPAFを冷水に溶解して電極上にキャストし、乾燥した後、温度を制御した電解液中で電気化学測定を行った。その結果、膜が還元された状態では約20℃、酸化された状態では約28℃において相転移が観測された。また、20-28℃の温度範囲において、膜を酸化・還元することにより膨潤・収縮できることがわかった。すなわち、PAF膜の相転移を電気化学的に制御できることが示された。また膨潤状態においては、膜内における電荷移動の見かけの拡散係数(Dapp)が、収縮状態より少なくとも5倍以上大きくなることがわかった。さらに、酸化還元電位も膨潤状態と収縮状態とで異なることがわかった。これらのことから、膜内における電子移動反応を温度により制御でき、また、PAF膜による熱的情報の電気化学的情報への変換が可能であることがわかった。しかしPAF膜の場合、膨潤状態において徐々に膜が溶解するという問題があった。そこで、PAF合成時に架橋剤を同時に重合させ、ゲルとすることにより、膨潤時にも溶出が起こらないようにした。PAFゲルもやはり膨潤状態と収縮状態とで酸化還元電位、Dapp値が異なり、またゲルの相転移を電気化学的に制御できることがわかった。これにより、PAFゲルが物質透過性制御膜、物質徐放材料、アクチュエーター、温度スイッチなどとして利用できる可能性が示された。また、PAFやPAFゲルを酵素の固定化担体として、なおかつ酵素-電極間の電子移動メディエーターとして用いることができ、新しい酵素電極を容易に作製できることがわかった。
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