電極反応を用いる求核剤(親電子剤)同士の反応は、一般に、酸化(還元)電位のより低い基質が優先的に電極での酸化を受け、ラジカルカチオン(ラジカルアニオン)などの親電子種(求核種)となり、これがもう一方のより高い酸化(還元)電位を持つ基質の求核(親電子)攻撃を受けて進行する。しかしながら、これとは逆の反応、すなわち、酸化(還元)電位のより高い基質が優先的に酸化(還元)されて進む求核剤(親電子剤)同士の反応については、これまでほとんど知られていない。 筆者らは、電位の低い求核剤としてインドール(1)、電位の高い求核剤としてアルコール(2)を用い、シクロデキストリン(CD)共存下での陽極酸化反応について検討を行った。その結果、この陽極化反応では、電位の低い1がCDに包接されてその電極での酸化が抑制される為、電位のより高い2の酸化が選択的に起こり、生じるアルデヒドと1との反応によりジインドリルメタン誘導体を高収率で与えることが判った。即ち、電位のより低い基質をCDに包接させるだけで電位のより高い基質の極性変換を伴い進行する求核剤同士の反応が実現できることが明らかとなった。従来、陽極酸化反応において、電位のより高い基質の酸化を積極的に優先させるような試みはさなれていない。従つて、筆者らのCDを用いる手法を様々な求核剤の組み合せへ拡張するならば、通常の有機電極反応系を用いた場合には期待し難い全く新しいタイプの有機電極反応を創出することが可能と考えられる。現在、この反応を1および2以外の求核剤の組み合せへ拡張し本陽極酸化反応の一般性を確立することを目的として種々検討を行っている。また、これまで得られた研究成果については、現在、投稿準備中である。
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