研究概要 |
生体内の電子移動反応で反応環境となるタンパク質の役割を、植物の光合成系反応中心タンパク質において検討した。ホウレンソウより単離した光合成光化学系I反応中心色素タンパク複合体を用いて、本来の電子受容体であるフィロキノンを除去し、その代わりに合成キノンを内部人工メディエーター分子として導入し、タンパク-合成分子-ハイブリッド反応中心複合体を作成した。この反応系の外部溶媒は水であるが、水中に分散された反応中心タンパク内部では、クロロフィル2量体(P700)→電子受容体クロロフィル(A0)→フィロキノン(合成キノン)→鉄硫黄センター(FA,B,C)の順に光により電子移動が行なわれる。各種キノン分子及びその類似化合物を導入し、そのタンパク内での性質、電子移動反応速度、タンパク質との相互作用を検討した。この結果【.encircled1.】光化学系I反応中心内部に導入されたキノンは、1電子移動のみを行ない、各種のナフトキノン、アンスラキノンについてその酸化還元電位は有機溶媒中に比べて著しく負の値をとることがあきらかになった。一般にキノンの酸化還元電位は溶媒のアクセプター数に応じて変化するが、タンパク質内部反応環境は、均一溶媒中では達成がかなり難しい値にまで酸化還元電位を変化させ、目的にあった電子移動系を達成していることが明かになった。【.encircled2.】反応中心内での、電子受容体クロロフィルと幾つかのキノンの電子移動反応の速度をピコ秒レーザ分光法により測定し、高速の反応時定数(30-200ピコ秒)を得た。この速度と反応の自由エネルギー変化の値との関係を電子移動理論により検討した。
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