電子衝突による多価イオンまたは原子の励起過程の研究において、R-行列法は今日最も精度の高い励起断面積を求めることができるが、標的の波動関数の精度が励起断面積にどのように影響するかについての研究は詳細になされていない。当初、多価イオンの励起断面積を高い精度で求める計画でいたが、まず、上記の標的の波動関数の精度の問題を解決しなければならなかった。そこで、イオンに比べて多くの実験結果が報告されている中性ヘリウムの励起過程について研究した。標的の波動関数の1s軌道について、ハートリーフォック法により近似す場合および水素様に近似する場合について詳しく研究した。その結果、ヘリウム原子の場合には、電離エネルギーより高い入射エネルギーでは前者が、低い入射エネルギーでは後者が精度の良い励起微分断面積を与えることが明らかとなった。また、全系の波動関数については、標的の状態の数を多く含める必要はなく電子相関のとり方を十分にとることで精度の高い断面積が得られることがわかった。これらのことは多価イオンの場合にもそのまま適用される。この研究の成果は今後多価イオンの励起微分断面積を見積もるのに基礎的で重要なことである。さらに、ヘリウム様イオンのSXVおよびナトリウム様イオンのArVIIIについて励起断面積を現在計算中である。
|