平成5年度は、既存の多重時間スケールkappa-epsilonモデルの予測性能評価、多重時間スケール応力方程式モデルの提案、および新モデルの格子乱流への適用、検証を実施した。 まず、既存の多重時間スケールkappa-epsilonモデルとして、もっとも検証の進んでいるKimモデルを用い、2次元チャンネル流と2次元衝突噴流の数値計算を行った。その結果、Kimモデルはこれらの流れに対して単一時間スケールkappa-epsilonモデルと同等の予測能力しか持っていないことが判明した。特に、単一時間スケールkappa-epsilonモデルによる予測が不可能であることが知られ、乱れのスケールが大きく変化していると予想される衝突噴流でも顕著な改善が認められなかったことから、既存モデルではまだ十分に多重時間スケールの効果が取り込まれていないことが明かとなった。 次に、新たな多重時間スケール応力方程式モデルの基本形構築を行った。乱れのエネルギースペクトルを3分割し、大小スペクトル区分における厳密なレイノルズ応力輸送方程式をSchiestelの提案に基づいて導き、モデル化した。エネルギー輸送率は、従来行われていたように代数的に決定するのではなく、区分レイノルズ応力輸送方程式からの類推により輸送方程式としてモデル化した。このモデルをもっとも基本的な乱流である格子乱流に適用し、関係するモデル係数を実験データ、実現性条件、試行計算から決定した。さらに、さまざまな初期状態にある格子乱流(計6ケース)に対する検証計算を行った。この結果、レイノルズ応力各成分の減衰過程はもとより、乱れの不変量の非線形的な変化まで、本モデルによって十分な精度で予測可能であることが明らかとなった。 来年度は、既存モデルの予測性能に関するより詳しい調査、および平均速度勾配の存在する場での多重時間スケール応力方程式モデルの構築を行う予定である。
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