研究概要 |
本年度は、1993年2月に打ち上げられた『あすか』衛星状神経節用、観測データ解析ソフトウェアの開発に参加した。このため、X-Window システムが稼働する高解像度画像処理能力をもったUNIXワークステーションを購入して解析等に利用した。 重点な研究対象としてジェット天体SS433を選び、試験観測計画立案および解析を行なった。この観測は、1993年4月23日、29日、5月6日、および9月16日に行なった。SS433のジェットは163日の周期で歳差運動をするが、これは歳差位相0.08,0.12,0.16,0.97に対応する。また、4月29日の観測はX線の部分蝕の中心位相にあたり、他の3回は蝕と正反対の軸道位相に当たる。引き続いて第一次観測公募に対して、試験観測とは異なる歳差位相0.24-0.27での観測を提案して採択され、その前半部分は10月27〜29日に観測された。これは蝕への進入時期でもある。 観測の結果、鉄イオンからの輝線が、正反対方向に光速の1/4で運動する2本のジェットに対応する二つのドップラー偏移を持つ成分に分れていることを発見した。この現象は、今回の『あすか』の観測によってX線領域では初めて確認された。また、鉄以外の硅素、硫黄、アルゴンなどの元素からの熱的なX線輝線もそれぞれ二つの速度成分をこの天体から初めて検出した。この輝線エネルギーを用いて、ジェットの速度を可視光域の分光観測に匹敵する精度で決めることができた。これは、可視光観測から予測とは食い違いをみせており、ジェットの運動や加速機構を解明するための材料となる。また、蝕中と前後のスペクトルを比較すると、輝線の種類によって部分蝕の割合が異なることも見いだされた。これによって、ジェット上の温度分布を定量的に推定することができる。
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