研究概要 |
本年度は走査型トンネル顕微鏡のよる有機分子の映像化に加えて,映像化原理を知るために次のような研究を遂行した.重点的に研究したのは,1)脂肪酸,脂肪族アルコール,脂肪族アミン,アニリドについて結晶性基板上での配列状況から基板と分子の相互作用についての定量的な研究,2)分子内の化学的官能基を走査型トンネル顕微鏡による映像のちがいとして区別する方法とその原理の解明のための分子軌道法による電子波動関数の計算,3)有機液晶分子の走査型トンネル顕微鏡による映像化原理を量子化学の新しい視点からの説明を試みた,4)アミノ酸,塩基,ペプチドなど生体分子あるいは生体高分子のモデル物質の走査型トンネル顕微鏡による映像化,の4点である.特に有機分子内の異なる特性を持つ官能基の識別に関しては、2重結合,アミド基,フェニル基,カルボニル基などを区別できることが初めて確認され,この理由として非経験的な分子軌道計算の結果と対応させての映像化原理の解明が進んだ.しかし、カルボキシル基,水酸基は官能基として識別することができず,分子軌道法からの予想とは異なる実験結果となっているのでその理由の解明が急がれる.本年度は有機溶媒と結晶性基板の固液界面に吸着した分子を対象にした研究を中心として行い,有機分子の配列に関する統計力学的な解析から自己組織化薄膜の形成にかんする基礎的なデータを得た.今後,さらに生体関連分子へと研究を進めて当初の目的を達成し,新しい研究成果をあげるよう努める.
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