本研究の目的は、代表者の提唱している微視的非局所理論を用いて、フォトンSTM(あるいは近視野走査型光学顕微鏡)の分解能の限界やそれを達成するための条件、予想される問題点、先行している他の走査型顕微鏡にはない独自性を理論的に明らかにすることである。今年度は、共鳴準位を持った、半径15Aの半導体微粒子を様々に並べた系[a)1個の系、b)間隔50Aで一列に100個並べた系、c)更にその上に微粒子を1個乗せた系、d)正方格子状に並べた系]による近接電磁場を計算し、分極のpatternとの対応関係、光の振動数や偏光方向、電子構造に対する依存性を調べた。その結果、近接電磁場強度は、試料からの距離が微粒子の間隔かそれ以下の時、分極のpattern(の2乗振幅)とよく似ていることが分かった。但し、微粒子の間隔程度の空間分解能を失う距離は、系の幾何学的な構造に強く依存する。より遠くでは、(今まで知られていなかった)かなり複雑な振る舞いを示し、系の構造や入射光の分極の方向によっては、分極のpatternとは異なった近接電磁場分布が現れることも分かった。これらは、波長より小さな試料内に誘起された分極を源として放射される散乱光が、距離に対して(方向に依存した)冪で減衰し、指数関数と比べて、近くでは速く、遠くでは遅く減衰する性質を反映したものである。この範囲の距離では、入射光の波長(計算では3800A程度)は、あまり重要な意味を持っていないと考えられる。一方で、微粒子の間隔程度の空間分解能が無い距離においても、分極密度に応じて異なる近接電磁場分布が得られ、依然、分極の情報を持っていることが分かった。上記の1次元系に対して、probe先端を1個の微粒子と近似した計算も行った。今までのところ、単に分解能が下がる効果のみが確認されているが、probeの効果について、今後詳しく調べる予定である。
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