本年度は、自作の高分解能STMセルを用い、種々の有機分子(超薄膜)の凝集構造の直接観測を行う事により、有機分子における核・結晶構造形成過程の解明を試みることを第一の目的として研究を遂行した。得られた主な成果は以下の通りである。 まず標準試料としてn-パラフィン系試料を用い各種基礎実験を行なった。具体的にはHOPG等の基板上の蒸着膜のSTM観測を行い、蒸着条件、基板の種類の違いによる変化などに関する基礎データを集積した。その結果は、n-パラフィン(C_<33>H_<68>)はじつに多様なSTM像を与えること、それらは有機分子が基板上で如何に核を形成し、それが成長し、二次元結晶と成長していくかを示唆するものであり、こうした有機分子の準安定状態にある凝集構造の高分解能STM観測を通して、有機分子の構造形成過程の全容の解明する糸口が得られた。 次に、二種類の新規合成有極性試料(DOPPC、DOPCP)の蒸着膜のSTM観測を行った結果、これらの分子の凝集形態は分子内の電気的双極子間の相互作用および分子と基板原子との相互作用によって決定づけられることが判明するとともに、多極子-多極子相互作用を考慮したコンピュータシュミレーションを行い、観測されたSTM像と良い対応を得た。 最後に、有機分子超薄膜にSTM探針を利用して、局所的に高電界のパルスを印加することにより分子層にサイズで1nm以下の変形を誘起することが実証され、超高密度分子メモリーの可能性を示唆するデータを得た。
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