研究概要 |
雲仙普賢岳は1990年11月の水蒸気爆発で火山活動を開始し、翌年5月の溶岩ドーム出現に先だって2月からマグマ水蒸気爆発がおこった。マグマ水蒸気爆発の勢いは時間と共に増し,噴出物の飛散程度は大きくなり,火口径が拡大した。一方,5月中旬から溶岩ドーム出現までの2週間は噴火がおこらなかった。この一連の噴火の過程は,地下から上昇してくるマグマのヘッドの移動深度を反映したものであると考えることができた。すなわち,マグマが地下の帯水層に到達してマグマ水蒸気爆発が開始し,通過後に一度噴火がとだえたと考えられる。電気抵抗探査からは帯水層が700mから150m深に推定されている。これはマグマ水蒸気爆発に伴う火山性の地震について決定された震源深度ともほぼ一致する。このため,マグマ水蒸気爆発の際のマグマヘッドは700mから150m深にあったと考えられる。帯水層を通過後は噴火が止みマグマヘッドが地表に近づいたため,火口周辺の膨張がおこり始めたことが分かった。 一方,マグマ水蒸気爆発の噴出物にはマグマの本質物質(発泡した流紋岩ガラス)が認められる。このガラスの量は古い溶岩片に比べて少ない(数パーセント)が,明らかに時間と共に増加する。これらのことはマグマヘッドが地表に近づきながらマグマ水蒸気爆発をおこしていたこと調和する。ガラスに含まれる結晶の組成も後から出た溶岩ではよく似ているが,基質中の微小結晶の量はガラスで極端に少ないものがある。発泡ガラスがより微小結晶に乏しく,石基角閃石を含まない。これは,水蒸気爆発をおこしたマグマヘッドが急冷されたため,後から出た溶岩に比べて結晶作用が進行しなかったためであると考えれる。マグマの温度を鉱物組成から決定すると約900〜950℃となり,後から出た溶岩の温度よりはやや高めであることもこれを裏付けている。
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