研究概要 |
一次痛覚伝達物質サブスタンスP(SP)のシナプス伝達修飾作用を検討した。幼若ラットより脊髄を摘出し、厚さ120μmのスライスを作製した。ノマルスキー顕微鏡下において後角背側2-3層のニューロンを直視同定した後、パッチクランプ法によるホールセル記録を行い、膜電位を-70mVに固定して膜電流を測定した。介在ニューロンを細胞外刺激して、bicuculline、strychnine存在下に興奮性シナプス電流(EPSC)を、CNQX存在下に抑制性シナプス電流(IPSC)を単シナプス性に誘発した。SP(0.5-1.0μM)を潅流液内投与したところ、16例中14例において、IPSCの振幅が顕著に抑制された。14例の平均抑制率は43%であった。これに対して、EPSCは19例中13例で抑制され、13例の抑制率は29%であった。SPの作用部位を明らかにするため、テトロドトキシン存在下に自発性微小IPSC(mIPSC)を記録した。mIPSCの平均振幅、時間経過はいずれもSPの影響を全く受けなかった。したがってSPのIPSC抑制作用は、前シナプス性と結論される。また、SP投与により、mIPSCの頻度は有為に変化しなかった。N型Caチャネルブロッカー、ωコノトキシン(3μM)はIPSCの振幅を約49%抑制した(n=6)。ωコノトキシンによってIPSCを部分的にブロックした後にSPを投与したところ、IPSCはもはや抑制されなかった(平均抑制率-1.0%,n=9)。SPは抑制性シナプス前終末端のN型Caチャネルに作用して伝達物質の放出を抑制すること推論される。興奮性、抑制性シナプス電流に対するSPの効果の差は、おそらく神経終末端におけるSP受容体密度の差に起因すると想像される。この実験結果は、SPが痛覚伝達物質として働くばかりでなく、抑制シナプスの抑制を通じて痛覚を強める可能性を示唆する。
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