酵母染色体分配に欠損がある温度感受性変異株ts12を相補する遺伝子として単離されたMCS1遺伝子はSIT4フォスファターゼ欠失による致死性を補う遺伝子SSD1と同一である。様々なキナーゼ系との関連が報告され、pleiotropicに働くと考えられるが、野生型株の中にも機能を失ったdead typeが存在する。野生型株KA31を宿主にしてMCS1遺伝子破壊を行うと温度感受性になることを利用して酵母における酸化的ストレス応答とCキナーゼ経路との間に相互関係があることを見いだした。 mcs1▽ssd1▽欠失株は高温で膨潤し液胞も巨大になり増殖を停止する。 このts性は培地に1Mソルビトールを加えることにより抑圧される。又、PKC1のマルチコピーによっても部分的に抑圧される。PKC1に依存してさらにts性を回復させるマルチコピー遺伝子を検索したところグルタチオン合成の律速段階を触媒するGSH1が単離された。最終産物であるグルタチオンを培地中に加えるとMCS1破壊株だけでなくpkc1 ts株の高温での増殖も回復することができた。しかしその濃度はGSH1破壊株が1mMを要求するのに比して5mMを必要とした。そこでグルタチオン添加の効果として考えられる酸化的ストレスについて調べたところ、MCS1破壊株は酸化ストレスを引き起こす薬剤ジアミドに感受性であった。この事実からMCS1遺伝子破壊株は高温で増殖させたときに生じるストレスに対応できなくなっている可能性が考えられる。 PKC1遺伝子以外にMCS1破壊株の温度感受性を抑圧するマルチコピーサプレッサーを二つ取得しており、そのなかの一つ、MMC1遺伝子はアミノ酸配列からセリン、スレオニンに富み、シグナルペプチド、及び膜貫通構造をとりうる膜タンパク質であると考えられる。またもう一つのマルチコピーサプレッサーであるMMC2遺伝子のアミノ酸配列中にはロイシンジッパー様構造が見いだされた。
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