アクアライシンIはThermus aquaticus YT-1が分泌する菌体外セリンプロテアーゼである。アクアライシンIの前駆体は、成熟酵素領域のN末端側にシグナルペプチドとプロ配列を、さらにC末端側にもプロ配列を持ち、4つのドメイン構造から成る。大腸菌のアクアライシンI遺伝子発現系において、活性中心変異型酵素では、アクアライシンIの48kDa前駆体蛋白質(成熟酵素部分にN、C両末端プロ配列が結合した中間体)が外膜に結合して蓄積し、野生型遺伝子では、前駆体が菌体内に蓄積し、高温(65℃)処理により自己触媒的にプロセシングされ、成熟酵素が生成する。本研究においては、前駆体の性質と酵素の分泌において果たすC末端プロ配列の役割を明らかにすることを目的として実験を行った。 1.アクアライシンIの48kDa前駆体蛋白質(活性中心の変異型)を硫安分画、陽イオンカラムクロマトグラフィーにより精製した。円二色性の解析では、この蛋白質はβ鎖の多い一定の構造を取っていると推定された。トリプシンによる部分分解では、N末端プロ配列は切断されず、成熟酵素部分のArg16とAsp17の間で最初の切断が見られた。 2.大腸菌の発現系で、N末端シグナルペプチドを欠失した遺伝子を発現させると、プロテアーゼ活性を認めることはできなかった。しかし、C末端プロ配列をC末端から20残基以上欠失すると、活性が認められた。 3.T.thermophilusの発現系では、成熟型酵素が菌体外に分泌される。この発現系において、C末端プロ配列をC末端から5残基以上欠失した変異型遺伝子では、プラスミドを取得することができなかった。これら実験事実はC末端プロ配列が前駆体のアンホールディングに働き、酵素の菌体外分泌に必須であることを示唆している。
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