肥大型心筋症の原因遺伝子を同定する目的で、日本人本症患者172名について心筋betaミオシン重鎖遺伝子の構造解析を行い、20名の患者に13種の本症と共分離するミスセンス変異を同定した。このうち12種は家族歴の明かな本症患者102名中18名に見出されたものであり、このことから日本人本症の約20%はミオシン変異に起因するものと考えられた。一方、本症多発家系について心筋betaミオシン遺伝子内の2箇所のCAリピートマーカーを用いた連鎖解析を行った結果、42多発家系中11家系では本症との連鎖が否定された。このことから、日本人本症のすくなくとも約25%はミオシン以外の原因遺伝子に起因すること、すなわち本症の遺伝的不均一性が明かとなった。さらにこれらの非ミオシン家系について第18染色体上の遺伝マーカーを用いた連鎖解析を行った結果、18q12にマップされる遺伝マーカー(TTRおよびA7)とのロッド値が組替え率0.05で最大値3.35をとることを明らかにし、日本人非ミオシン家系の本症原因遺伝子が第18染色体長腕上(18q11-12)に存在することを示唆した。一方、非ミオシン家系の原因遺伝子同定を目的として、収縮要素遺伝子群のゲノム遺伝子単離および染色体マッピングならびにRT-PCR法による組織特異的発現性の解析を行った結果、ヒト非筋型ミオシン調節軽鎖遺伝子群(RLC-AおよびRLC-B)が第18染色体短腕上に存在すること、RLC-A遺伝子は心筋および骨格筋に強く発現することを明らかにした。さらに本症患者48名を対象としてRLC-A遺伝子変異のスクリーニングを行った。現在のところ疾患特異的変異は検出されず、RLC-A遺伝子が非ミオシン家系の本症原因遺伝子である可能性は低いと考えられる。
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