平滑筋収縮のCa^<2+>-制御に、カルモデュリン-ミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)系が強く関与していることは間違いない。しかしながら精製した脱燐酸化ミオシンはATP存在下では安定なフィラメントを作り得ないことから、生きた弛緩平滑筋中において安定なミオシン・フィラメントが存在する理由は謎であった。カルデスモン(CaD)は細いフィラメントの構成成分のひとつとして平滑筋から単離されたが、その後ミオシンS-2部分に対する親和性があることが報告された。そこで脱燐酸化ミオシンにCaDを加えてみたところATP存在下でも安定なミオシン・フィラメントが形成され、ややMg^<2+>濃度を上げた条件では、天然の太いフィラメントと同様に明瞭な14nmの周期をもつ大きなフィラメントが出現した。更にF-アクチンを加えるとCaDにより形成を誘導されたミオシン・フィラメントがF-アクチンの周囲に係留される様子が観察された。以上の結果は、細胞内のアクトミオシン領域にCaDが局在しているとの報告と良く符合するのみならず、弛緩状態における脱燐酸化ミオシン・フィラメントをCaDが安定化する可能性を強く示唆するものである。一方、ごく最近、MLCKのC-端部分と同一のアミノ酸配列を有し平滑筋内で大量に存在するにもかかわらずこれまでその機能が不明であった蛋白質テロキン(Tkn)がミオシン・フィラメントの安定化に寄与しているとの可能性が報告された。追試の結果、Tknのそのような作用を確認したが、生成したフィラメントのサイズは不均一であった。しかしCaDを共存させた場合にはサイズはより均一となり、明瞭な14nmの周期が観察された。弛緩条件においてミオシン・フィラメントが存在する血管平滑筋や、他の非筋運動組織などでTknが全く発現されていないなどの状況証拠から、弛緩時におけるミオシン・フィラメントの安定化にはCaDが主役を演じているか、あるいは両者が協力して働いているであろうと推測される。
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