血管内皮から放出された血管収縮弛緩物質は中膜層平滑筋に作用しては血管収縮の調節を行う。平滑筋の収縮調節にはミオシン調節軽鎖のリン酸化の関与が知られているので、本研究では、平滑筋ミオシン頭部にあるリン酸化調節ドメインの構造を明らかにした。ミオシン頭部はアクチン繊維との間に滑り運動を起こすモータードメインを持つ。このドメインを構成するミオシン重鎖は頭部の付け根で二つの軽鎖成分(調節軽鎖と必須軽鎖)と結合している。平滑筋ミオシンから頭部断片を切り取って精製し、1-エチル-3-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]カルボジイミド(EDC)と混合したところ、ミオシン重鎖と軽鎖成分との間に共有結合性架橋を作った。重鎖はそれぞれ別々の部分で二種類の軽鎖成分と架橋していた。EDCはゼロ距離化学架橋剤であるので、これらの架橋アミノ酸残基対は互いにミオシン頭部内で相互作用している可能性が非常に高い。架橋産物を蛋白分解酵素で細かく切断し、架橋部位の同定を行った。その結果、調節軽鎖と必須軽鎖は近い位置で重鎖と結合して、それらはコンパクトな“調節ドメイン"と言える構造を形成することを示唆している。さらに、現在は、架橋アミノ酸残基を人工的に変異したミオシン分子を作るために、培養細胞を使ったタンパク発現系の開発を進めている。
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