本研究は、有性生殖型と無性生殖型を含むヒヨドリバナとそれに感染するウイルスの間の相互作用を野外調査と実験によって解析し、生物種間相互作用における病原体の役割を明らかにすることを一つの目的としている。3年間にわたる個体群統計学的調査の結果、無性生殖集団ではウイルスの感染は3年間という短い期間で集団全体にひろがること、ウイルスの感染は無性生殖植物の適応度を、生存、成長、繁殖というすべての側面において低下させること、したがって、ウイルスの感染を受けた無性生殖集団では短期間に個体数が減少することが明らかになった。 ウイルス集団にどの程度変異があるかを調べるために、複製酵素をコードする遺伝子の一部をPCRによって増幅し、PCR産物をクローニングして配列を比較した。その結果、アミノ酸配列で20%ほど異なるウイルスが同じヒヨドリバナ個体に同時に感染していることが明らかになった。この事実はウイルスがきわめて早い速度でホストに適応する可能性を示唆する。 以上の研究のほか、共生者と共生関係に依存して寄生する者との相互作用を理論的に調べ、共生依存的寄生者が群集の安定や種の多様性の増大に寄与することを示唆する結果を得た。このような関係の一例として、イチジク・イチジクコバチ共生系において、花粉を運ばないコバチがおり、この居候コバチの種多様性が高いという現象があげられる。この現象についてさらに研究をすすめるために、イチジクの花の開花期間の効果を考えたモデルを作った。花粉を運ぶイチジクコバチの個体数に応じて、イチジクの開花戦略がどのように変化するかを調べ、一斉開花が有利な場合や、漸次開花が良い場合があることを示した。このようなイチジクの開花習性のちがいによって、花のう内の居候コバチの多様度が決まってくると考えられる。
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