本研究では液胞型ATPaseが細胞増殖の調節、あるいは形質転換やがん化形質の獲得においていかなる役割を果たしているのかを解明することを目指し、以下の研究を行なった。 1 BPV-E5のクローニングとラット繊維芽細胞株の形質転換: ウシパピローマウイルス(BPV)のゲノムDNAからPCRにより5E遺伝子を増幅し、SV40プロモーター支配下に動物細胞発現ベクターに組み込んだ。このプラスミドをラット繊維芽細胞継代株EL2に導入し、安定形質転換株を分離した。この形質転換株は、予想されるように、他のがん遺伝子でトランスフォームした場合と同様の形態変化を示し、増殖活性の上昇が認められた。今後この形質転換株をもとに、プロテオリピッドを過剰に発現させることにより形質転換を抑制できるか否かを検討する。 2 ドミナント・ネガティブ変異体およびアンチセンスRNAの発現による液胞型ATPaseの破壊: 液胞型ATPaseの機能を破壊するアプローチとして、プロテオリピッドのドミナント・ネガティブ変異体を動物細胞で過剰発現させる実験系を構築した。まずドミナント・ネガティブ効果を示す変異を酵母を用いて検索した。酵母プロテオリピッドの様々な変異体を野生型酵母に導入し、液胞型ATPase欠損株としての表現系を与えるものを検索した。この結果、DCCD結合部位と推定されるGlu-137をGlnあるいはLysに置換した変異体でドミナント・ネガティブ効果が認められた。この結果に基づき、ラットおよびヒト由来のプロテオリピッドcDNAに対応するGlu-139→Glnの置換を導入した。変異cDNAをRSVおよびMMTVプロモーター支配下、動物細胞発現ベクターに組み込み、EL2細胞にトランスフェクトして安定形質転換株を分離した。またラットのプロテオリピッドcDNAをアンチセンス方向にMMTVプロモーター支配下に組み込み、同様にEL2細胞で安定形質転換株を得た。今後これらの細胞株をもとに液胞型ATPaseの機能低下による細胞増殖の変化を解析する。
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