本研究課題遂行のためまずグルタミン酸レセプター機能をin vivoで修飾する発生工学用ツールの開発・設計を行なった。なかでもグルタミン酸レセプターGluR3サブユニットの変異体であるsGluR3に着目しその修飾作用を詳細に検討した。sGluR3の遺伝子配列は土井らによりラットの内耳組織からPCR法により部分的に増幅されたが予測されるアミノ酸配列は第2細胞質ループでアミノ酸が33個欠失している以外はGluR3と同一であった。私は全長sGluR3 cDNAを作成しアフリカツメガエル卵によるcDNA発現系にまず応用し、sGluR3がレセプターとしてほとんど機能せずまた正常サブユニットと混在した場合AMPA型特異的にグルタミン酸レセプター機能を抑制することを示した。さらにサブユニット特異的抗体を用いた免疫抗体学的解析からこの抑制効果はsGluR3が正常サブユニットとヘテロオリゴマーを形成することに基づくことを示した。これらの知見はsGluR3がグルタミン酸レセプター機能低下マウス作成のツールとして有用であることを示す。これに基きsGluR3 cDNAをbeta actin promotaerの下流にサブクローニングし当該遺伝子をマウス受精卵前核に注入しトランスジェニックマウスの作成を行なった。約500個の処理卵から5匹の生存トランスジェニックマウスを得、現在グルタミン酸レセプター機能のin vivo解析目的で当該マウスの繁殖を行なっている。ここまでの成果を日本神経科学学会、日本分子生物学会で報告するとともに、結果の一部を邦文誌に発表した。総合的成果については一流英文誌に投稿中である。今後は当該マウスの学習・行動解析、シナプス機能の電気生理学的解析を行なうとともに、使用するプロモーターを適宜選択し細胞特異的に、脳内部位特異的にグルタミン酸機能の低下したマウスを作成していく予定である。
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