中枢神経細胞のアポトーシスのモデルとして、初代培養大脳皮質神経細胞に対するカルシウムイオノフォアであるイオノマイシンの細胞毒性の作用について検討を加えた。イオノマイシン(1μM)を培地に添加すると2時間後ではほとんどの神経細胞が生き残っているものの、8時間後には約60%、16時間後には40%以下の神経細胞しか生存していなかった。この細胞死はRNA合成阻害剤であるアクチノマイシンD及び蛋白合成阻害剤であるサイクロヘキサミドによって抑制された。さらにイオノマイシン添加によって転写因子であるc-FOSの発現が増大していた。これらことはイオノマイシンによる細胞死が新たな転写や翻訳を必要とする積極的なメカニズムによるものであることを示唆している。この様な細胞死はアポトーシスである可能性が考えられるので、神経細胞の微細形態の変化について透過型および走査型電子顕微鏡による観察を行なった。イオノマイシン添加後2時間の神経細胞では核の濃縮、クロマチンの凝集、細胞質内での空胞の形成などアポトーシスでの特徴的な変化が観察された。さらに時間が経過すると細胞表面にはアポトーシス小体様のものが観察されるようになる。また生化学的指標としてはDNAの断片化も認められた。以上のことから、Caイオノフォアであるイオノマイシンによる神経細胞死はアポトーシス様のものであると考えられ、モデル系を確立することができた。 つぎにこのモデル系を用いて神経細胞のアポトーシスにたいするbasic fibroblast growth factor(bFGF)の作用について検討した。bFGFは用量依存的にイオノマイシンによる神経細胞死を抑制した。即ちbFGFは神経細胞のアポトーシスを抑える働きを持つと考えられた。予備的な知見からはbFGFはイオノマイシンによるCa^<2+>流入は抑制しないという結果が得られており、何らかの細胞内メカニズムが介在していると考えられた。
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