アルツハイマー病の病理変化の一つである老人斑の主成分は、アミノ酸695-770個の前駆体(APP)に由来するアミノ酸42個程度のbeta/A4タンパク質である。当初、病的状態でbeta/A4タンパク質が生成され神経毒性をもたらすと考えられたが、近年の研究では正常でも分泌されていることが明らかにされた。アルツハイマー病の老人斑形成の過程やその神経毒性の解明のために、培養細胞で遺伝子導入によって過剰に発現させて、その代謝を調べた。 サル線維芽細胞由来のCOS細胞では、DEAE-dextran法による一過性発現を行った。すでに報告されているように、セレクターゼによる分泌は確認されたが、我々の抗体ではbeta/A4タンパク質の分泌を検出できなかった。今後、さらに感度のよい抗体・検出法の樹立を試みる。 ヒト神経芽細胞由来のNB-1細胞はdibutyryl cAMP(Bt2cAMP)処理によって神経突起を伸張する。未分化状態からより神経系の細胞へ分化するといえる。この細胞でelectroporationによってAPPの過剰発現系の樹立を行った。APP695の発現株は確立できたが、APP770については得られなかった。単なる技術的な問題か、APP770特有の機能を反映しているかについては検討中である。 NB-1でも、主な代謝経路はセクレターゼによる分泌系であった。Bt2cAMPによって、神経突起の伸張を誘発するとAPPのmRNAレベルとAPPタンパク質発現量は数倍以上増大し、同時に細胞の変性死が観察された。いわゆるamyloidogenic断片の増大は確認されなかった。この結果から、神経細胞にとっては、過剰なAPPそのものが有害であり、神経細胞の変性にはamyloidogenic断片は必ずしも必要ないことが考えられる。今後、さらに神経系培養細胞でのAPP機能・代謝を検討していきたい。
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