繰り返し構造を基本としたパターンは、生物界に広くみられるパターンであり、その形成機構の解明は古くから発生生物学の大きな課題の一つである。本研究は、規則正しいspacing patternをなすショウジョウバエ成虫中胸背楯板の感覚毛(小剛毛)に注目し、このspacing patternの形成機構の解明をめざしている。成虫の感覚毛は、変態初期に翅成虫原基の表皮細胞の中から選択された感覚母細胞に由来する。感覚母細胞は2回の分裂をへた後、感覚毛へと分化する。従って、成虫小剛毛のspacing patternの形成機構を解明するためには、感覚母細胞の出現パターンを解析し、その配置メカニズムを理解しなければならない。そこで、感覚母細胞のマーカーとなるエンハンサートラップA101系統を用い、小剛毛母細胞の出現パターンを解析した。その結果、母細胞は縦の列を単位とし、時空間的に決まったパターンで出現することを見いだした。各々の列内では、母細胞の出現に一定の順序は認められなかったが、後から出現する母細胞は先に出現した母細胞と2-3細胞離れた部位に出現し、全体として母細胞はほぼ等間隔の距離を保つことが明らかとなった。続いて、感覚毛形成に大きな役割をもつと思われるachaete遺伝子の発現パターンを解析した。achaete遺伝子産物は感覚母細胞形成数時間前から列を単位とした細胞群で発現し、その発現は動的に変化し、最終的に母細胞に対応するいくつかの細胞に収束していくことを見いだした。これは、感覚母細胞形成はachaete遺伝子の発現による列を単位としたproneural cluster形成のプロセスと、その細胞群のなかで競争が起こり、勝ち残ったいくつかの細胞が母細胞として決定をうけるlateral inhibitionの2つのプロセスにより進行することを示唆している。
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