研究概要 |
完全変態昆虫の行動は変態によって劇的に変化する。この行動変化は蛹期における広範な神経回路の変更によって起こる。本研究では、変態中の様々な神経系の変化がどの様にして統一的にあるいは相互作用によって調節され、成虫の神経系として組織されていくのかを細胞と分子のレベルで解明するための基礎データとして次の結果を得た。 1.エンハンサートラップ法を用いて変態期の神経系に特異的に発現する遺伝子の検索を行なうために、HZベクターの特徴を検討した。約100系統を樹立し、3令後期幼虫の様々な組織におけるβ-gal染色パターンの特徴を調べた。その結果、a,染色率でみると器官はいくつかのグループに分かれた。すなわち、脳、腹髄、生殖巣、前腸で染色率が約90%と非常に高いグループ、付属肢の成虫盤、唾腺、環状線で染色率が約80%と高いグループ、筋肉、脂肪体で染色率約16%と低いグループ、その他の中間的な染色率のグループである。b.成虫盤が染色される系統はすべて神経系も染色された。c.ある成虫盤に注目すると組織全体が染色されるものと一部域のみが染色される系統があったが、組織全体が染色される系統ではすべての種類の成虫盤が染色された。 2.神経系と成虫盤の染色パターンに注目して、特に、神経系の全体と肢の成虫盤の中央部と他の一部のみを染色し、翅芽を染色しない19系統を選んで、染色体番号、P因子の挿入バンド位置、致死性、不妊性を調べた。その結果、第1染色体に1系統、第2染色体に5系統、第3染色体に13系統でP因子が挿入されていた。また、3系統が致死、5系統が不妊であった。これらの系統について成虫の神経系のβ-gal染色を行なったところ神経細胞の多くが染色されない系統がほとんどであった。
|