ColIb-P9プラスミドの自律的複製の開始頻度は複製開始蛋白質RepZををコードするrepZ遺伝子の発現量によって決定されている。repZ遺伝子の発現はその上流に位置するrepY遺伝子の翻訳と終結に共役したRepZmRNA先導域の動的な構造変化に依存し、それが107塩基離れた二つの塩基配列(GGCG/CGCC)の対合によって一過的に形成されるシュードノットと呼ばれる特異なRNA構造によるものであることが遺伝学的解析から予測されている。RepZmRNA先導域には構造I、IIIと名付けられた二次構造が存在し、その構造変化がシュードノットの形成に重要であることが示唆されているが詳細は不明である。本研究では生化学、分子生物学的解析から、RNAシュードノットの形成に導く分子過程を明らかにし、もって、プラスミドDNA複製の制御機構を理解することにある。 RepZmRNA先導域を含む293塩基のRNAを試験管内で合成する系を確立し、二次構造の解析を行なった。その結果、当初予測された構造I、II、IIIのほか、二つの新たな二次構造を明らかにした。シュードノット形式に必要なGGCGとCGCCはそれぞれ構造Iのループと構造IIIのステムに位置しており、repYの翻訳の無い状態ではシュードノットの形成はみられない。次いで、構造IIIを突然変異を利用して破壊(これはrepYの作用に相当する)するとCGCC配列を含む11塩基中10塩基が構造Iループ部分と対合したシュードノットが形成された。興味深いことに、シュードノット形成に関与する塩基はどの塩基でも対合において同じでなく、GGC/CGGの3塩基配列が最も重要であることが明らかとなった。このことはシュードノット形成が幾つかの異なる反応段階から構成されており、これらの塩基は最初の反応にとって重要であることを強く示唆している。
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