近年の研究で、rRNAは翻訳過程の各ステップで直接的役割を演じていることが示されている。我々の研究は複雑な翻訳機構に関わるrRNAの多様かつ動的な構造を解明することを大きな目的にしている。平成4年度までの研究で、切り離された一つのドメインでRNA-タンパク質相互作用およびその構造解析が可能であることを示してきた。平成5年度はelongation factorの作用部位と考えられている28S rRNAの“GTPaseドメイン"と“毒素ドメイン"に注目し、以下のような構造と機能に関する知見が得られた。 I.EF-2の作用部位としてのGTPaseドメインと毒素ドメイン-大腸菌の場合と同様に、動物リボソームにおいてもelongation factor(EF-2)が二次構造上遠く離れた両ドメインを化学修飾から保護した(GTPaseドメインのG-1878と毒素ドメインの4塩基)。この結果は、両ドメインがEF-2/EF-Gとの相互作用に普遍的役割をもつことを示唆するものである。 II.GTPaseドメインのG-1878部位の性質-GTPaseドメインに結合してelongation factor依存のGTPase活性を阻害する二つの物質が知られている。すなわち真核生物型構造を認識する抗28S自己抗体と原核生物型構造に特異的な抗生物質thiostreptonである。本年度の研究で真核生物28S rRNAのEF-2作用部位G-1878と原核生物23S rRNAの等価位置のA-1067の塩基の違いがこれらリガンドの結合特異性に大きく寄与していることが判明した。なお、このドメインに結合するラット肝リボソームタンパク質L12は真核生物型、原核生物型の両RNAとほぼ等しい結合性を示した。 III.毒素ドメインへのリボソームタンパク質の関わり-elongation factorの作用部位付近のRNA修飾試薬とその反応性を60Sサブユニットと裸の28S rRNAとで比較したところ両者でかなりの差が検出され、リボソームタンパク質結合によるRNAの構造変化が示唆された。大腸菌毒素ドメインの合成RNA断片を用いた分析で二種の結合性タンパク質が同定された。
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