(1)groEL1のクローニング:PCR法により約540bpの産物を得た。その塩基配列から推定したアミノ酸配列はGroEL1由来のペプチド断片のアミノ酸配列と一致することからこのPCR産物は63kDaポリペプチドの遺伝子(groEL1)の一部であると考えた。このPCR産物をプローブにして、ノーザンハイブリダイゼーションで、その転写産物を調べたところ、その大きさからもこの遺伝子がgroEL2遺伝子とは異なることが明らかになった。塩基配列から推定した部分アミノ酸配列が既にSherman等によって報告されている常温性ランソウSynechococcus sp.PCC7942のgroEL遺伝子のそれと全く一致することと、後述の転写産物の大きさから、この遺伝子はオペロン構造をとっていることが予想された。現在この遺伝子及びその上流、下流域を含むDNA断片を単離して全構造を解明するために、ショットガン・クローニング及びプラークハイブリダイゼーションによるゲノムDNAライブラリのスクリーニングを行っている。 (2)転写産物の解析:groEL2遺伝子(1662bp)の転写産物は約1.8kbpのモノシストロニックmRNAであることが分った。さらに、このmRNAは、熱ショック後、約6倍に増加した。このことはgroEL2遺伝子の転写が熱ショックにより誘導されることを示す。また、このgroEL2遺伝子の上流に存在するORF(237bp)を含むDNA断片を上記のようにして標識したものをプローブとして用い、ノーザンハイブリダイゼーションにより分析したところ、熱ショックの前でも後でも転写産物は見いだされなかった。このことはこのORFの産物が通常の培養条件では発現していない可能性を示唆する。 groEL1の転写に関しては、先に述べたPCR産物をプローブにして、ノーザンハイブリダイゼーションで、その転写産物を調べたところ、大きさは約2.3kbpであった。転写は63℃、15分間の熱ショックで強く誘導され、その転写量は約7倍に増加した。熱ショック処理前後のgroEL1遺伝子の転写産物量をgroEL2遺伝子のそれと比較すると、熱ショック前は約9倍、熱ショック後は約11倍、前者の遺伝子の転写産物量の方が多かった。これは、熱ショックにより大量に蓄積するのはGroEL1蛋白の方であるという以前の知見と矛盾しない。 (3)熱ショック蛋白の分離と精製:菌体を63℃の培地に移して3時間熱ショックをかけ大量にGroEL1蛋白を合成させた後、菌体を破砕し可溶性画分をブチルトヨパールカラムで分画した。このようにして得られた標品はSDS-PAGEで63kDaにほぼ一つのバンドを示す。ゲル漉過カラムによると分子量は数十万程度である。弱いATPase活性を示すがシャペロニン活性については現在検討中である。熱ショックで誘導される蛋白はSDS-PAGEで解析すると、そのほか現在まで4種類ほど検知される。N末端アミノ酸配列をデータベースで検索した結果GroES及びDnaKと高い相同性をもつものが見つかったが、そのほかのバンドはこれまで知られていない配列で未知のものと推測された。現在これらの蛋白については、プロテアーゼ処理により、更に多くの部分的アミノ酸配列情報を求めて、それらを用いてプローブを合成し遺伝子のクローニングを行っている。
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