[目的] 高等植物における物質生産の遺伝子レベルでの人為的制御や有用形質の付与の目的のために、トランスジェニック植物には大きな可能性がある。今回、自然界の無機硫黄同化経路であるシステイン生合成反応の鍵酵素、システイン合成酵素(CSase)のcDNAを導入したトランスジェニックタバコを作出しその解析を行った。 [方法と結果] ホウレンソウ(Spinacia oleracea L.)の細胞質局在性のCSaseAのcDNA翻訳領域を、植物発現型ベクターに、センスcDNA(pCSK3F)、アンチセンスcDNA(pCSK3R)、葉緑体に輸送するシグナル配列を融合したセンスcDNA(pCSK4F)、の方向に組み込んだ中間ベクターを構築した。このキメラ遺伝子をAgrobacterium-Tiプラスミド系をもちいてタバコ(Nicotina tabacum)に導入し、トランスジェニック再生植物体を得た。葉におけるCSase酵素活性の測定の結果、pCSK3FとpCSK4Fの形質転換体において非形質転換体よりも高い活性を示し、pCSK3Rの形質転換体ではCSaseの活性低下が見られた。さらにこれらの形質転換体の自殖によって後代を得た。このトランスジェニック後代植物についても、ウエスタンブロット分析によって外来CSaseタンパク質の発現を確認した。またCSase活性の増加に伴うシステイン、グルタチオンなどの含硫有機化合物の生産量の変化について検討している。また、硫化水素ガス暴露などの硫黄環境変化に対する応答についても調べている。
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