研究概要 |
平成5年度の本重点領域研究において,シロイヌナズナから古典的遺伝学と分子遺伝学の技法を組合せた新しいアプローチであるクロモソーマルウォーキング法を用いて,緑体局在のomega-3脂肪酸不飽和化酵素遺伝子(fad7)のクローニングを行なった(Iba et al.,J.Biol.Chem.,268: 24099)。さらに,遺伝子導入が容易なタバコをモデル実験の材料に用いて,CaMV35Sプロモーターに連結した同遺伝子を組込んだ形質転換植物体を作製した。25℃で生育させた形質転換タバコにおいて,ノーザン解析からfad7遺伝子が過剰に発現していることが確認された。また,形質転換タバコの葉の全脂肪酸におけるトリエン脂肪酸(18:3,16:3)の割合は野生株と比較しておよそ10%増加していた。この植物体を光照射条件を変えずに,7日間,1℃にさらした後,再び25℃,5日間生育させたところ,野生株で見られた葉の成長阻害が暖和され,低温処理を行なわなかった植物体と同様の成長を示した。また,低温処理によってクロロシスをおこした個体の割合も,形質転換タバコでは野生株と比べ減少した。これらの低温傷害は,伸長過程の幼葉組織において特徴的に発生した。実際に,幼葉では多不飽和脂肪酸の割合は成熟葉と比較して少ないが,形質転換タバコではこの若い時期の葉でも脂肪酸の不飽和度が高い。以上の結果は,トリエン脂肪酸の割合を増加させることによって,高等植物の低温耐性能力を向上させることができることを示している。
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