味覚の認知と学習の脳内情報処理機構

1993 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 05267101
• 研究機関: 大阪大学
• 研究代表者: 山本 隆 大阪大学, 人間科学部, 教授 (60028793)
• 研究分担者: 長井 孝紀 帝京大学, 医学部, 講師 (50130026)
• キーワード: ニューラルネットワーク / 味覚 / 情報処理 / 大脳皮質 / ニューロン

研究概要

本研究では、生理学実験で得られた4基本味刺激(糖、塩、酸、キニーネ)に対する大脳皮質味覚野ニューロンの応答性をもとに、バックプロパゲーション学習則を用いて3層パーセプトロン型ニューラルネットワークを構築した。このネットワークにテストパターンとして、学習時に提示しなかった食塩(より濃い濃度の食塩)に対する応答パターンを入力すると、ネットワークの出力は塩味と共に酸味の成分を強く含んでいることが明らかになった。この結果は、すでに、生理学実験で得られている各ニューロン間で応答量の相関をとる手法による結果と定性的によく一致した。またこのことは、行動実験の結果とも一致した。さらに、学習済みのネットワークの重み分布を解析することによって、入力ニューロンをプルーニングする(刈り取る)手法を考案した。この手法では各入力ニューロンの重み度を算出し、この重要度が小さい入力ニューロンをプルーニングした。このようなプルーニング法によって、ニューラルネットワークの応答にはほとんど変化はみられず、味覚情報として重要でない入力ニューロンがプルーニングできたといえる。これは、言い換えれば、味覚情報として重要である皮質ニューロンが抽出されたことになる。また、これらのニューロンの空間分布を調べることにより、味覚情報の分散表現を示唆する結果が得られた。
今後、この手法により抽出された皮質ニューロンの大脳皮質味覚野での分布、大脳皮質の構造、さらには味覚情報の処理機構との関連をあきらかにすることが課題である。また、プルーニングを自動的に行なうアルゴリズムの導入も検討課題である。

研究成果

• [文献書誌] 山本 隆: "味の記憶" 歯界展望. 81. 1099-1106 (1993)
• [文献書誌] T.Yamamoto: "Neural mechanisms of taste aversion learning" Neuroscience Research. 16. 181-185 (1993)
• [文献書誌] 山本 隆: "味覚嫌悪学習に関与する脳部位とニューロン活動" 日本脳研究会会誌. 19. P185-P188 (1993)
• [文献書誌] T.Yamamoto: "C-for expression in the parabrachial nucleus after ingestion of sodium chloride" Neuro Report. 4. 1223-1226 (1993)
• [文献書誌] T.Yamamoto: "Representation of hedonics and quality of bitter compounds in the parabrachial nucleus of the rat." Physiology and Behavior. (印刷中). (1994)
• [文献書誌] R.Matsuo: "Effect of salivation on neural responses in freely moving rats." Brain Research. (印刷中). (1994)
• [文献書誌] 山本 隆: "ブレインサイエンス最前線'94(佐藤昌康 編)" 講談社,東京, 197 (1993)