学習・記憶の情報処理

1994 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 05267103
• 研究機関: 慶応義塾大学
• 研究代表者: 安西 祐一郎 慶應義塾大学, 理工学部・電気工学科, 教授 (40051875)
• 研究分担者: 山鳥 重 東北大学, 医学高次機能障害学, 教授 ; 甘利 俊一 東京大学, 工学部計数工学科, 教授 (80010726) ; 小田 洋一 大阪大学, 基礎工学部生物工学科, 助教授 (00144444) ; 二木 宏明 東京大学, 文学部, 教授 (10073074) ; 小野 武年 富山医科薬科大学, 医学部・第二生理学教室, 教授 (50019577)
• キーワード: 記憶 / 学習 / 海馬 / シナプス可塑性 / LTD / 前頭前野 / 神経回路網モデル / 記憶障害

研究概要

学習と記憶の神経機構を、情報処理の面から実験的・理論的に解明することを目的として昨年度の成果に基づいた研究を行ない、以下の成果を得ることができた。(1)サルの海馬周辺ニューロンについての、視覚刺激の位置関係と時間関係の認知実験から、そうしたニューロン群がエピソード記憶の機能に関与することが強く示唆された(小野)。また、サル前頭前野における視覚的情報の統合について、色の次元について選択的応答を示すニューロンと、色と運動方向の2つの次元について選択的応答を示すニューロンの分布、応答潜時、視野偏好などを調べ、前頭前野では視覚的情報が断層的に処理されていることが強く示唆された(二木)。(2)抑制性長期増強(DLTP)におけるシナプス伝達の量子解析によって、金魚のマウスナ-細胞のDLTPでは、シナプス伝達における放出確率や放出部位数が増えることが推定された(小田)。また、音刺激による金魚の行動学習にDLTPが深く関与している可能性が示唆された(小田)。(3)脳神経回路網の多層ネットワークモデルについて、素子数と関数近似精度の関係を数理的に解析し、ある特定の関数のクラスについて、入力の次元が大きくなってもパラメータをそれにつれて増す必要はないことを明らかにした(甘利)。(4)自己組織的神経回路網モデルについて、動的パターンの学習モデルを新たに提案した(福島)。また、脳神経回路網における非単調ダイナミクスによる学習モデルとして、動的パターンの学習が容易に行なえる新しいモデルをコバリアンス学習に基づいて構築した(森田)。(5)孤立性逆向健忘の2症例について、神経心理学的検査に基づき、側頭葉の機能低下はあるが海馬の機能低下はあっても軽いことを示唆した(山鳥)。(6)短時間に情報を記憶できる人間の記憶情報処理の特徴を捉えた新しい記憶情報処理モデルを認知科学の立場から構築した(安西)。以上、本年度の研究では、昨年度に得られた基本的知見の上に、学習と記憶の神経機構についての新しい実験的・理論的研究成果が蓄積され、情報処理という概念を媒介として成果の関連性がつけられたと考えられる。

研究成果

• [文献書誌] Ono,T.: "A parietal neural activity during in directional delayed nonmatching-to-sample task awake rat" Neurosci,Res,Suppl.19. S247 (1994)
• [文献書誌] Niki,H.: "Spatial selectivity of go/no-go neurons in monkey prefrontal cortex" Exp,Brain Res.100. 165-169 (1994)
• [文献書誌] Oda,Y.: "Long-term potentiation of glycinergic inhibitory synaptic transmission" J.Neurophysiol.(to appear). (1995)
• [文献書誌] Amari,S.: "Estimation of network parameters in semiparametric stochastic perceptron" Neural computation. 6. 1244-1261 (1994)
• [文献書誌] 山鳥 重: "海馬と記憶障害" 神経進歩. 38. 997-1003 (1994)
• [文献書誌] 安西 祐一郎: "動的類似度を用いたワンショット学習則" 日本神経回路学会誌. (印刷中). (1995)
• [文献書誌] 安西 祐一郎: "脳と心のモデル" 岩波書店, 189 (1994)
• [文献書誌] 安西 祐一郎: "認知科学の基礎" 岩波書店, 214 (1995)